ルノーカングー エンジン内部における不具合の修理

ルノー・カングー シングルカムエンジン搭載の初期型が整備で入庫しました。

初期型の割には走行距離が少なく、外観も綺麗で基本整備と消耗品の交換で完了すると思いきや
そんなに甘くは無かったです。

入庫当初より気になっていたのが、ヒータホースラインへのエアー混入の音。
エンジン始動と同時に室内足元より「ジュルジュル~」っと鼻をすする様な音を発していたのです。
当初はエア抜きすればすぐに改善されるものだろうと信じていたのですが、裏切られました。

原因は、シリンダヘッドガスケット吹き抜けによる、ウォータジャケットへのエンジン圧縮圧のリークでした。

ここでは原因追求と、修理について紹介していきます。

このような症状の場合、原因を最短距離で見つけ出したいものです。
ウォータラインに混入したエアーはエア抜きを繰り返しても、減少するどころか逆に増えていますので
これ以上のエア抜きは無駄な抵抗となります。
よって、次のステップへと進みます。

この段階では もしかしたらヘッドガスケット?という状況ですので、まずはクーラントに排ガス成分が
混じっていないかを調査する為、4ガステスタによる濃度測定を行います。
ガステスタを用いますが、測定対象はマフラーエンドでは無く、クーラントのタンクです。
タンク上部の空気層にガステスタのノズルを挿入し、測定を開始すると。。。?
HCの値に変化が出ました。
写真では20ppmという数値ですが、この後200ppmを越える数値まで上昇しました。
この時点でガスケット抜けはほぼ確定です。

CIMG9003 CIMG9001 CIMG9002

念のため、機械的な診断も行いました。
コンプレッションロステストです。
各シリンダをひとつづつ測定します。
測定の対象となるシリンダを上死点(ピストントップ・バルブ全閉)にセットし、そこへ圧縮空気をテスターを
介して吹き込みます。
通常は、ピストンリングの消耗や、バルブの密閉度を診る為に用いるのですが、今回はその対象がガスケットです。

順番にチェックを進行し、4番シリンダまで進みました。
CIMG9011 CIMG9012

ここで確証の持てる結果が現れます。
CIMG9010 CIMG9013
4番シリンダへ圧縮空気が入ると、リザーブタンクの液面が上昇します。
実際に見ていると、妙な光景です。

1分もたたない間にここまで上昇しました。
CIMG9015 CIMG9017
クーラントが溢れます。
4番シリンダは、サーモスタット取り付け部に最も近く、サーモハウジングに取り付けられるウォータホースには
ヒータコアに繋がるホースも取り付けられています。

症状の全てが繋がります。
エンジンが始動する→圧縮ガスが漏れる→サーモのそば→ヒータコアにエアが混じる
→エンジンから発生するエアが冷却ラインに混じる為、再三エア抜きをしても改善されない
ヘッドガスケットの交換とシリンダ及びヘッドの歪みを改善する必要あり。

今回の様な内容、過去にフィアットパンダの際にも同様の記事を紹介しています。
エンジン圧縮漏れ あからさまな例

と、いう事でお客様と連絡をとり、追加作業としてのスタートです。
まずはシリンダヘッド本体をエンジンブロックから外すところからです。
1ヘッド降ろし直後のブロック
ヘッドを取り外したエンジン。

そして、問題発生箇所は分解後すぐに見えてきました。
燃焼室と水路が近く弱そうな構造です。
ガスケットが紙製の為何か問題が起きると、すぐさまこの弱い箇所へ負担がかかるのでしょう。
2問題の箇所ブロック側 3問題の箇所ヘッド側 4問題の箇所ガスケット側

こうして角度を変えるとより分かりやすいです。
5ヘッド裏全体 6ヘッド裏問題の箇所
問題の起きた場所は、大きな歪こそ無いものの、オイルストーン仕上げでは消せない荒れた肌が現れました。
(荒れた肌の画像を残せていませんでした。)

肌が荒れていると、ガスケットを新しくしても時間経過に合わせて再発する可能性がありますので
今回はヘッドの平面研磨も行いました。

各部の分解を行い、ヘッド本体はトレントによる洗浄を行います。
10洗浄前 11洗浄後
さすがな仕事ぶりです。
ものの短時間でここまで綺麗になります。
分解整備業を行っていると、部品洗浄にかかる時間の短縮は本当に効率が上がります。
また、アルミに対して刺激の強い洗剤を使わずともこの仕上げが可能ですので、トレント無しは考えられなくなっています。

ブロック側も手作業ですが、ピストントップの清掃や、平面の清掃を行います。
ヘッドは分解・摺り合わせ・当たり点検を行って組み付けますので、燃焼室周辺に関して掃除が出来ていないのは
ピストンリングのみという事になります。
組みあがった後は、カーボンクリーニグを施工した以上の効果が期待できます。
13ブロック側清掃後

平面研磨を行い、バルブの当たりを改善し、生まれ変わったヘッドです。
15ヘッド裏研磨後 14ヘッド単体完成
バルブクリアランスの調整はヘッド搭載・増し締め後に行います。

そして、新品のガスケットを合わせて、不足している箇所に高耐久シール剤を塗布し、組み付けを行います。
16新品ガスケット

組み付け後、この様な事も行いました。
年数経過と共に、必ずと言って良いほど折れてしまう問題のコレ。
CIMG9138
ヒーターホースのエア抜きプラグです。
プジョーは真鍮のボルトですが、ルノーはプラスチックである事が多いです。
しかもここを緩めなければウォータラインのエア抜きが非常にめんどくさいのです。

折れた場合、対処のしようが無いのでホース交換となります。
ホースは案外高価なお値段です。

そこでこの様な手段で対策してみました。
CIMG9140 CIMG9141
対象箇所を切断・撤去し、変わりにアルミ製3ウェイユニオンの真ん中をブロックプラグで蓋をし、そこにプジョーの
エア抜きスクリューが取り付けられる様にネジをたてました。

これにより、不安無く好きな時に好きなだけエア抜きができます。
CIMG9144

このパーツは、専用品でなく、汎用性の高い構造となっています。
ホース内径に合わせてアタッチメントの付け替えが可能で、3本ともホースを差し込む事も可能です。

水廻りが弱くて有名なフィアット500にも対応可能です。
フィアット500ロワホースジョイントに用いる場合の商品もご用意可能です。

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