alfaromeo156 V6 エンジン不調のトラブルシュートについて

ご新規様の156が各部の整備で入庫しています。
以前に取り上げた電圧チェックを行っている156ですね。

当社での整備が始めてであると同時に、現状不具合を抱えているという車輌です。
年数経過を経た車輌は、過去にどういう事を行っているのか、どこで整備を行っていたのか、など
着手をする前にも考える事が豊富です。

車輌は、156 2.5 V6 Qシステム 走行距離は5万キロ弱
目立つ不具合の症状は、アイドリング時の不整脈に加えてV6だけれどもエンジンの元気が無い

さ~どこから見ようか。悩ましい症状です。
一通りの整備を行った結果、何だかよく分からぬまま治ってしまった。これは避けたいので、手順を踏んでトラブルシュートです。

エンジンが調子良く回すには、良い圧縮・良い火花・良い混合気 ですので、そこに沿って考えていきましょう。
まず、診断テスタによる診断も重要な手がかりですので、エラーチェックを行います。
「ノックセンサー 異状信号」といログが。不可解なエラーですね。
ノックセンサーが反応するということは、6気筒のシリンダが不規則な運動をしているかもしれないので
特定のシリンダの回転周期にムラがある可能性があります。
アイドリングのバラつきは常時発生しているので、その際の各実測値をチェックします。
チェックデータはここでは現しませんが、不調発生に関わらず、特に気になるデータは出てきません。
ミスファイアを起こす様子もありません。
排気ガスの状態も異常と言える程の濃度は排出していません。

その他チェックを進める中で、絞られてくるのがエンジンの機械的損失・ダメージ・トラブルです。
各バルブがきっちりと閉まっているか?次はそこを疑います。
v6エンジンの場合、インテークバルブを確認するには、メッキが美しいインテークパイプを外す必要があります。
CIMG8804

パイプを外し、内部を覗き込んでみると一見すると綺麗なインテークバルブですが少し気になる事が見つかりました。
それは、インテークポートの奥に残る1本の筋状の黒い線。
その線は吸い込まれる様にバルブの傘まで伸びています。
もしもこの黒い筋が、バルブの密閉を妨げていたら良い圧縮の条件は満たされなくなってしまいます。

密閉テストを行なうために、今度はコンプレッションロステスタを用いてバルブ全閉・ピストン上死点状態で
シリンダ1つづつに圧縮空気を送り込みます。
この項目について、画像を撮り忘れた為、似たような作業を行った過去記事をご覧下さい。
156JTSにおけるエンジン単体での圧縮漏れテスト

すると、全てのシリンダのインテークバルブにエアリークを確認できました。
リークの画像がこれです。
CIMG8807
洗浄液をポート内部に溜まるよう流し込み、その状態で内側より圧縮空気を入れ込みます。
ボコボコと泡立ちが確認できます。これは密閉不良を意味します。
完治を目指すにはシリンダヘッドを分解し、バルブ廻りのリフレシュが必要ですが今回はそこまでは
行えませんので、洗浄液の効果に少し期待してバルブ全数の洗浄を行います。

これが不調の原因とは考え難い為、次の点検に進みます。
今回は、ステージ3メンテナンスを兼ねていますので、先にインジェクタノズルのテストを行ないます。
CIMG8813
作業前のノズル噴霧量
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作業後のノズル噴霧量
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一連のノズルクリーニング作業により、全体的に噴射量が増えました。
と、同時にバラツキも発生しています。
バラツキは嬉しくありませんが、噴射量が増えるのはノズル開閉状況に変化が出たとして良しとします。
交換したくても、このノズルは新品が生産終了となっていますのですぐに対応するのは難しそうです。
類似品を探し、噴射パターンの最適化や、噴射量の調整等も合わせて今後の当社にとっての課題となります。

続きましては、私の好物でもあるV6・DOHC バルブタイミング関連の点検を行います。
バルブタイミング、この言葉の響きが好きです。
そして、バルブタイミングが秘める奥の深さ、もっと好きです。
そんな事はさておき、点検を始めます。
ちなみに、タイミングベルトは少し前に交換済み、との事です。
なので、ベルト交換・ウォータポンプ交換は行わず、単純にタイミングの点検です。
CIMG8798
エンジンの上部を覆う全ての部品を取り外す必要があるため、気軽に点検する事ができません。
さらに、これら全てを外す事に伴ない、取り外すボルトの多い事。
ネジ皿の上はボルトで溢れてきます。

専用のSST(スペシャルサービスツール)が必ずと言って良い程、必要です。
まずは、SSTで基本最低限の位置関係を調べます。
この場合のSSTは、各カムシャフトのおにぎり型に対して、それらを抱え込む用にツールを取り付ける事で
カムロックが出来ると同時に、カムシャフトの位置関係を見るために必要な位置関係に4本のカムをセットできます。
測定開始から間もなく、ん?な事が判明しました。
それがこの画像です。
CIMG8799
基準位置にセットしているにも関わらず、もうひとつの基準位置を見てみると。
「ずれてる...。」
そのほかはまあ、大体合っているかな?という感じです。
CIMG8802 CIMG8800 CIMG8801
SSTを使用しても、奥側2本のカムシャフトは、本当に正しい位置で組むことが難しいのが
このエンジンなのです。
でも、アルファロメオ製V6エンジンの魅力を味わうには、この繊細な調整作業が非常に重要という事。

V6は、シリンダヘッドが2個備わるわけですから、それぞれのバンクが均等なバランスで回る必要があります。
にもかかわらず、それぞれのタイミングが少し狂うと、回転ムラが生じてしまいます。
だからこそ、SSTの使用と、その後の微調整が必要になるわけですね。
ちなみに、今回のズレ幅は微調整の範囲を超えています。

微調整は、ベルトを外す必要も、緩める必要もありません。
対象となるカムシャトを好きなだけ補正できる構造になっています。
こういうところが、素晴らしい点なのです。
最近の車のエンジンの場合、カムシャフトプーリに仕掛けの備わる物が多い為
任意のタイミング調整は行えません。
しかし、このV6シリーズは最周期のGTAに搭載される物まで全て細かな調整作業が可能です。
ある意味、人間味があり、芸術性まで備わる良いエンジンだと言えるでしょう。

CIMG8809
納得のいく調整値まで到達しました。
色々と点検・診断を行ってきましたが、その都度エンジンを始動できるわけでは無い為、ひとつひとつの内容の
結果を直接確認できないのが辛いところです。
変化に現れてくれる事に期待をしながら作業を進めますが、本当の答えは組み付け後に判明と言う事で
折り返します。

エンジンの始動直後のアイドルアップが終了し、アイドリングが落ち着くまで待ちます。
すぐさま安定感の違いを確認できました。
アイドリングのみならず、走りにも違いが出ています。
トラブルシュートが的中した瞬間が、メカニックとしての喜びを感じられます。

この後、予定通り各部のメンテナンスを行います。
ステージ3メンテナンス
ステージ1メンテナンス
一通りを終えて、非常に良い結果が出ています。
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不調を誘発していた車輌ですので、作業前のデータは残していません。
作業後の結果のみとなります。
2.5LV6は、カタログスペックは 190ps/6300RPM ですので、しっかりとカタログデータを上回る結果を残せました。
v6は、エンジンがしっかり軽く回らないと、その良さを堪能できません。
年数の経った車輌のリフレッシュメンテナンスもお任せ下さい。

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