プジョー・リフター デモカー整備

プジョーのマルチアクティビティビークル「リフター」が、レッドポイントのデモンストレーションカーに仲間入りしました。1.5Lの過給器付きディーゼルエンジン・8速オートマチック変速機、先進運転支援システムなど、新しいシステム満載の車両です。新しくトライを行いたい整備や用品試作などに、この車両を活用していく予定です。

  1. 【1】車両の状態を確かめる
  2. 【2】SDL診断
  3. 【3】実作業をスタート
  4.  (1)スチーム洗車
  5.  (2)ブレーキメンテナンス
  6.  (3)SessAブレーキパッドへのパッド交換
  7.  (4)ブレーキフルード交換
  8.  (5)ステージ1メンテナンス(充電廻り整備)
  9.  (6)ステージ3メンテナンス
  10.  (7)ACS機器によるエアコンガスメンテナンス
  11.  (8)オゾン発生装置による室内除菌脱臭
  12.  (9)エアコンキャビンフィルター交換
  13.  (10)4輪アライメントの測定&調整
  14.  (11)ADAS(先進運転支援システム)カメラエーミング作業
  15. 【4】最後の仕上げ


【1】車両の状態を確かめる

プジョー・リフター デビューエディション 車両詳細

  • 年式:2019年式
  • 走行:30700km
  • ボディカラー:ディープブルー
  • 1.5リッター ディーゼルターボ付
  • 8速オートマチック車

2年で3万キロ走行のメンテナンスが大切になる車両状況の個体となります。
今回は、レッドポイント流のデモカーの整備の様子をリフターを使ってご紹介します。兄弟車シトロエン・ベルランゴと同様、新車で購入されたお客様からのお問い合わせも多くなっています。マルチアクティビティビークルとしていろんな使い方がイメージできる車だけに、しっかりと性能を発揮できるよう適正整備を行ってみます。
はじめて診させて頂くお客様のお車とまったく同じ方法で、様々な観点から車両を診断し、点検を進めていきます。
走行距離や車両の状況より各部診断/点検を行い、車両全体の現状把握をし整備作業の進行を組み立てます。整備メニューでお客様にご提供している初診点検にあたる内容です。
現状の把握に大切な、試運転を繰り返します。背の高いボディは、左右縦揺れが気になります。車重1.6tonの全高1.9mの車両は、1.5Lでもトルクフルな過給器付きディーゼルエンジンと8段変速機の組み合わせで大柄ボディでもストレス無く走りを提供してくれます。
コモンレールシステムにて緻密な電子制御されるディーゼルエンジンは、シリンダー内に溜まるデポジットの除去を行えば、エンジン性能や燃費にも良い結果が保てると思います。

低速での停止時にブレーキペダルに伝わる若干の振動は、ブレーキローターの歪みの影響かと思われ、ブレーキローターの手当か交換も行いたいです。ブレーキパッドはダストフリーのSessAブレーキパッドに前後交換。忘れて行けないブレーキ整備には大事なブレーキオイルは水分が大敵、吸湿状況を確認し圧送機を使ってブレーキフルードの交換も行います。

エンジン冷却水も正確に点検します。不凍液の役割を誰もがご存じでしょうが、冷却水に帯電した磁場を取り除く事も大切です。定期的な交換をお勧めしております。不凍液の濃度の濃すぎにも注意が必要です。エンジン冷却水(ロングライフクーラント)の濃度の点検を行った所、今回のリフターも含め新車より濃度高すぎの車両が目に付きます。下記画像のように成分エチレングリコールにてマイナス40度まで対応の状況です。地域によりますが10から20度程にて十分かと思います。濃度が濃すぎてマイナス40度近い想定の濃度では、夏のオーバーヒートや熱だまりの原因になります。弊社では水道水を使用せず、純水をベースにマイナス15から20度内の適正濃度のロングライフクーラントを使用しております。今回のディーゼルエンジンにも使用します。
濃度の濃すぎは、夏のオーバーヒートに繋がる要因にもなります。適正な濃度にしたことで水温計針位置が変化した車両を何台も目にしております。

バッテリーの点検から始まる充電回路のチェック。バッテリーはテスター診断では正常となっていますが、スタート容量が65%まで下がっていましたので、先手を打って交換したいですね。

オルタネーターによる発生電圧は14.94Vで有り大変良好です。しかし無負荷時14.79Vのバッテリー端子間電圧の数値が負荷状態にて12.61Vに落込みが見られます。これが車にとってやっかいな、電圧ロス(電圧降下)となります。ここではヘッドライトの点灯・空調ブロワ最大・リヤの熱線を入れるなど、電気負荷を与えた状態。下記は以前に別車両の診断画像ですが、電圧ロスが熱に置き換わっている状況をサーモグラフィーにて表しています。ハーネス端子のカシメ箇所にて電圧降下を目で見ることができます。安定した電圧を維持させることは、車両の性能に大きく関わってきます。よって充電廻りの状況を確認してステージ1メンテナンスを行うのは必須ですね。

【2】SDL診断

SDL診断結果を見ると、左右前後のサスペションの動きは良好ですが、リヤのサイドスリップ量が多いようです。フロント輪重1008キロ、リヤ輪重750キロ&1名乗車ですが、改めてリフターの車重の重さを確認しました。また、最近の車両はサイドブレーキが手動式から電動式に変わりつつありますが、サイドブレーキの機能は良好で、瞬時に効いている事も確認できました。
SDLテスト診断機、FASテスター、ECUテスターによる診断結果等により、今回の整備方針を確認し、以下を今回の整備メニューとしています。

  • ステージ1メンテナンス
    (充電廻り整備)
  • ステージ3メンテナンス
  • ブレーキ廻り整備
  • スチーム洗車
    防錆作業
  • SessAブレーキパッド変更
  • ACS機器による
    エアコンガスメンテナンス
  • オゾン発生装置による
    室内除菌脱臭
  • エアコン
    キャビンフィルター交換
  • 4輪アライメント点検調整
  • ADAS機能診断
  • その他の整備

【3】実作業をスタート

(1)スチーム洗車

作業開始はスチーム洗浄から、今回の作業を開始するために全ての作業を把握した上で実作業の順番を組み立てます。下廻りには、砂利・土・融雪剤などが付着します。メンテナンス預かりや法定点検整備など、お預かりさせて頂いている車両と同じように作業の方向性が決まれば、スチーム洗浄からのスタートです。事前にブレーキオイル・各潤滑油や冷却水の漏れなど十分に点検してからとなります。
スチーム洗浄にて上記の汚れを取り除くことにより、錆の抑制・ベアリングなど摺動部への異物混入などを防いだりとお車のコンディションを維持するための大事な作業となります。
もちろんホイールの裏まで綺麗に洗います。今回はSessAブレーキパッドへの変更も行うため、しつこいブレーキダストによるホイール汚れから解放されます。

(2)ブレーキメンテナンス

車の機関の中でも、最も大切な装置がブレーキですね。ブレーキが効かない車には危なくて乗れません。常に頼れる性能を維持する為にしっかりとメンテナンスしておきたいです。3万kmの走行によって、試運転の際に気になったブレーキローターの歪みの点検を行いブレーキローターの摩耗も確認しました。ブレーキパッドの交換も行う為、ブレーキローターの手当を行います。

(3)SessAブレーキパッドへのパッド交換

次は当社イチオシの高性能&低ダスト・ブレーキパッドへの変更。キャリパー各部の清掃&グリスアップを行いながらパッドを交換します。
ローターの摩耗も抑える事ができ、SessA低ダストブレーキパッドでいつもホイールが綺麗に保ち、ボディケアにも貢献します。なにより、ブレーキフィーリングが自然で扱いやすくペダル踏力に合せて制動が掛かります。ペダルへの軽い踏力でカクンッと強く制動が掛かってしまう車両がよくありますが、ブレーキ整備で解消します。

(4)ブレーキフルード交換

ブレーキ整備の最後にブレーキフルードの交換作業を行います。ブレーキパッドの厚み次第でリザーブタンクのレベルも変わります。キャリパーより押し戻された量が変わるとオイルの量も変わります。レベル調整も含め、ブレーキオイルを行います。ブレーキオイルは水分を吸収して劣化するため、こまめなオイル交換をいつも推奨しております。ESPなどが採用された今のブレーキシステムは、特にブレーキフルードの状態にシビアです。こまめに適切なブレーキフルードの点検・交換がとても大切です。

(5)ステージ1メンテナンス(充電廻り整備)

車の電気の巡りを改善するレッドポイントの基本整備で、入庫車両のほぼ全車に施工させていただく整備となります。まずはバッテリーを取り巻く環境整備を行うべく、バッテリーターミナルの交換、アース廻りの見直し・追加、B+配線の追加など、電気負荷が高い状態におけるバッテリー電圧を安定させるために大切な整備です。各所アースコード新作追加、オルタネーターB+コード製作追加、バッテリーターミナルの見直しなども行います。バッテリーターミナルを外した状態で、バッテリーのプラス側ポストを診て頂くと、どれだけの箇所がターミナルに接触していたのか想像できます。今回交換するバッテリーは純正と同じサイズ、EUROREPARの12V70A EN規格760AのAGMバッテリーです。ちなみに交換前にはしっかりと満充電にしておきます。

充電制御用のセンサーを付け替えて、バッテリーターミナルを純正から交換。バッテリーポストに対して面接触することと、しっかりと咥え込めることで改善が見込めます。接触面を拡大して改善することで、電圧降下による発熱を抑えます。もちろんプラス側も同様に交換します。
バッテリーターミナルを交換するためには、配線の端子を交換する必要がありますが、配線に端子をカシメる作業が良い電気の流れを作り出すためには重要です。レッドポイントでは、画像のような電動油圧圧着機で、配線と端子を強力に圧着しています。このツールを使って、追加するアースケーブルやプラスケーブルも製作します。高温にさらされる箇所には断熱素材のシートを巻き、熱による劣化対策も万全に。整備直後の性能だけでは無く、長く使用する中で性能が下がらないようにすることも主眼に置いています。
最後にターミナル、追加ケーブルを装着して、ステージ1ベーシックメンテナンスの完成。車両の充電廻りがどれだけ改善出来たかを確認してみます。その結果は以下のとおりです。

(6)ステージ3メンテナンス

ステージ3メンテナンスは、定期的に行う事でより良いコンディションを維持するために設定した整備メニューです。全ての作業前に現状確認の為、シャーシダイナモにて車輌の出力特性を測定しておきます。エンジンの出力は当然ですが、オートマチックの変速状況など把握する事が出来、作業前と作業後の変化を知る事が出来ます。

ステージ3メンテナンスに含まれるエンジン内カーボンクリーニング作業は、ディーゼルエンジンや新技術を取り入れたガソリンエンジンにより良く効果を発揮します。同時に各油脂類・エンジン冷却水の交換も行います。

車両側フューエルラインにカーボンクリーニング機を接続し、専用液剤を使いながらアイドリング運転を続けます。汚れをじっくりと浮かせる事が主の目的ですので、アイドリング状態でエンジンを回しながら、燃焼室内部とその周辺環境を綺麗にしていきます。その後、エンジンオイルをフラッシング用のオイルに入替え、オイルラインを洗浄します。
ステージ3メンテナンスにはカーボンクリーニングやオイルフラッシング、油脂類の交換、フィルター類の交換がメインの作業です。

ディーゼル車にはフューエルフィルターが必ず装着されていて、リフターの場合は、ガソリンタンク脇フロワ下に装備されています。交換サイクルも2~3万km毎がお勧めです。
エアクリーナーの汚れもなかなかでした。使用状況にもよりますが、過給器付きエンジンは、沢山の吸入空気を取り入れますから汚れも早いです。

エンジン冷却水の洗浄にSessA ラジエータクリーナーを使用します。30分ほどのアイドリングにて冷却水を循環させクリーニング。人体・環境にも安心なジエタノールアミン(弱アルカリ・水溶性)を主成分に、エンジン冷却水に付着する酸性物質の除去に効果的です。冷却塩交換後は測定器を使って適正濃度であることを確認します。
クリーニング作業を終えたら、純水ベースに適正希釈されたロングライフクーラントを使用します。今回は、マイナス20度付近まで使用出来るセッティングにて使用します。

ステージ3メンテナンスの作業、カーボンクリーニング、エンジンオイルフラッシング、エンジン冷却水交換、オートマチックオイル交換、エンジンオイル交換、オイルエレメント交換、エアーエレメント交換、フューエルフィルター交換を行い、最後にディーゼルエンジンの排気ガス測定・シャーシダイナモにて性能テストを行います。
排気ガススモークテスターを使用して、排気ガスに含まれるPM(Particulate Matter 粒子場物質)を測定します。結果、大変クリーンな排気ガスデータとなりました。

(7)ACS機器によるエアコンガスメンテナンス

BOSCH製ACS機器を使用して、エアコンのガス状況を確認します。充填されたガスの回収を行い、規定量を再充填します。また、エアコンの性能を高いレベルで維持するために、エアコンコンプレッサーのオイルは重要です。ACS機器にてエアコンメンテナンスの際は、SessA エアコンコンプレッサーPGAオイルを使用します。

(8)オゾン発生装置による室内除菌脱臭

室内環境改善の為、MAHLE製オゾン発生装置にて室内の除菌消臭作業を行います。濃度の濃いオゾンは人の目や鼻、のどに有害な為、作業中はスマホアプリを使ってリモートで経過を観察します。

(9)エアコンキャビンフィルター交換

除菌・脱臭後は、室内を循環する空気を綺麗に保つキャビンフィルターを交換します。使用状況にもよりますが、車両オーナーが代わった際は必ず交換したいですね。

(10)4輪アライメントの測定&調整

タイヤの性能をフルに発揮する為には、4本のタイヤの関係がとても大切です。足廻りの調整で、出来る限りの改善を行います。事前のSDL診断のサイドスリップ量も加味しながら適正な数値に調整を試みます。

先にリヤの足廻りを中心に調整を行い、スラストアングルを左側通行向きな方向に調整します。プラス側に向いているスラストアングルを弱マイナス方向に調整。トータルトーも適正化します。その後、ステアリング直進方向にフロントアライメントも調整していきます。何度もリヤ・フロントの調整を繰り返しながら、納得の数値に持ち込みます。

(11)ADAS(先進運転支援システム)カメラエーミング作業

4輪アライメントの調整の結果、車両の中心線が変更された為、ADAS(先進運転支援システム)のフロントガラスに装着されたカメラ位置の調整が必要となります。リフターに標準装備されている衝突軽減ブレーキ、レーンキープシステム、アクティブクルーズコントロール等を正確に作動させるために、とても大切な作業です。レッドポイントではMAHLE社製のデジタルエーミングツールを使用して、正確な運転支援システムを提供しています。今回のリフターもデジタルエーミングを施工します。

4輪アライメント調整による車両中心線の変更やカメラ・レーダーの作業を行った際は、先進運転支援システムの診断・調整は必須です。システムの制御を正確に理解して、つねに安心できる運転支援システムを提供します。

【4】最後の仕上げ

すべての作業が終わり、下廻りや各部の防錆作業も行って作業完了です。
レッドポイントでは、日々多くのテスト機材を用いて、整備前や整備後の車の状態を数値化し、診断の助けにしています。クルマだけでなく、クルマを取巻く環境の進化と変革に追従できるよう、日々勉強が必要です。どのような環境になっても、しっかり対応できる自動車整備をご提供するのがレッドポイントの使命と考えています。
自動車整備は、単にパーツの交換を行っただけでは、良い状態に仕上がったとは言えません。クルマのセッティングは無限にあります。細かな手法を駆使して最良なセッティグを探る必要があります。
ちなみに、現代の車両の制御は大きく分けて五つに分かれていると言われます。
『パワートレイン制御』『シャーシ制御』『ボディ制御』『セーフティ制御』『ネットワーク制御』
これらの制御技術を踏まえながら、そのクルマが持つ性能をきちんと発揮できるよう、正確な点検・診断・メンテナンスを提供いたします。

今回はプジョー・リフターを対象にした整備内容を紹介しましたが、これらの作業はリフターに限った話ではありません。走行3万キロのクルマは、まだまだ新しいようでいて、実はけっこういろいろな部分で些細な劣化が出始めている頃かと思います。「これからもずっと乗り続けたい」「楽しく、気持ちよく走らせたい」とお考えのイタリア車・フランス車のオーナー様、どうぞお気軽にご相談ください。

おわり

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