90’sネオクラシックに現代技術で挑む
トラブルシュートの沼


「トラブルシュートの沼」
今回のプジョー106 1.3ラリーは新車から乗り続けられているワンオーナーである車輛。
年数経過をカウントすると34年前後。私が入社したころはまだ新車から6年が経過した程度でした。
旧さを感じる事無く接した車体が、いつの間にか年を取り、その経過に合わせて過去には想定できなかった不具合を来す。
今回の整備事例は、経年劣化に応じた個性に満ちた故障内容であったと強く感じました。

お客様から頂いたご相談の内容は「なんだか排気ガスが臭い・燃費が悪い」という内容でした。
整備を承る側は、お客様のご意見をいかに噛み砕くか。これが最も大切だと私は感じています。
抽象的に伝える方もいれば、ある程度明確に伝えて頂ける場合もあり、その会話の中のどこに真相・真髄がるのかを見つける事が
トラブルと向き合う中で最も難しい事ではないかと思います。
抽象的な意見の場合は、会話の中に生まれるワードのひとつひとつに、答えが潜んでいないかを見極める努力をしています。
探偵や刑事の様な力を要求される場面のある自動車整備業。その様に感じています。
重要度がどの程度のものなのか..という事を見極める事も大切なのですよね。

今回については、排気ガスが臭い・燃費が悪くなった という超重要なキーが潜んでいます。
伺う内容に、トラブルに直結する内容が含まれる場合、そこを聞き逃すわけにはいきません。

排気ガスのデータサンプリング。
真っ先に行うのはこれだと思います。
お預かりのその日に、お客様の目の前で行いました。

BOSCH FSA による排気ガスの測定
「燃料が濃い!」
一般に言う排気ガスが臭いと言う表現は、不完全燃焼による CO HC の排出量が増大した場合に起きる症例です。
COは、薄い場合に増大する事は無く、逆にHCは濃い場合に極端に増加する特性を持ちます。

CO HC CO2 O2 これら4つのデータからある程度の仮説を立てる事は可能です。
最も参考になるのは、ラムダ値という表記。これは、理論空燃比を示します。
ラムダ=1.000
これは吸入空気量・燃料の量がベストバランスで、点火システムと燃焼室環境が正常な際に出力される数値。
ラムダ値が 1>0となる場合、希薄燃焼状態を意味し、1<0となる場合、濃密燃焼状態を意味します。
今回の場合、ラムダ値は0.792ですので 燃料が多い排気ガス状態と読み解けます。

CO2が少ない事も見逃せません。
ラムダ=1が成り立つ場合、C02排出量は16%近くまで上昇するはず。
燃えれば二酸化炭素が出る。これは小学生の事に学んだことですね。
勘違いを招き易いのが、エコカーは二酸化炭素排出量が少ないという例。
これは総排出量が少ないという事であって、完全燃焼すれば16%近くが排出されているということになります。

燃料が多い・濃いという事は理解が出来ました。

その原因がどこにあるのか・隠れているのかを確認する為に、様々な測定・診断をBOSCH テスタを使いながら確認しています。


燃調関連の不具合・空燃比を確認する中で、燃料供給圧力の点検と圧力調整機構の点検を行います。

インマニ負圧に合わせて燃料圧力が制御されているかどうか、これについてBOSCH FSA に備わる燃料供給系統の点検機能に基づき、グラフ値として認識させ
異常が無い事を確認。アナロググメータでは読み取り切れない細かな制御を、グラフで読み取ることが可能です。


BOSCH KTSテスタは、弊社の主力診断機。
普段はOBD2 16ピンコネクタを介して、車両と通信を行います。
1.3ラリーの時代には、OBDコネクタは存在しませんでした。
カーメーカー固有の診断ポートから、通信を行います。
この時代のプジョーは2ピンのコネクタが、それぞれのECUに備わっています。
とは言っても、1.3ラリーにはABS・エアバッグが存在しない為、診断できるのはエンジンのECUのみ。

マレリ社製 EMS IAW8P はKTSの処理により、必要最低限ですが実測値の計測が可能。
この計測の中で、大きな手掛かりを見つける事が出来ました。

デジタルとアナログの融合でのトラブル探求を進めます。


完全暖気状態にもかかわらず、燃焼噴射時間が長い事が今回の問題に直結していました。
思い当たる点検と処置を施した結果、色々な問題がクリアになる事を確認。


排気ガスのデータが正常値を示すようになり、一安心です。
沼からの脱出方法を見つける事ができ、1.3ラリーは本来の走りを取り戻しました。
中毒性の高いエンジン特性である事がウリです。
4500回転あたりから、ようやく出力を感じる事の出来るエンジン特性。
そこからは7000回転付近までストレスなくタコメータが一気に振り切るという性格。
パワーバンドに入れば、右足の力を緩めたくなくなる、ともて気持ちの良いエンジンが搭載されています。
ピークパワーは低めですが、ドライバーは速い!と感じれるとても楽しい車です。

お客様よりどんな感想が頂けるかが楽しみです。

Written by Hashimoto

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